BCP策定の手順

BCP策定の基本手順

BCP(事業継続計画)を策定することが決まると、まずリスク管理あるいは総務部門の責任者がアサインされることから始まると思います。ですが、アサインはされたものの何から始めてよいのかわからない方も多いかと思います。ここでは効率的に実のあるBCPを策定するためのポイントをお伝えしようと思います。BCPは書類を準備すればよいというものではないということです。

基本方針を策定する

例えば、トヨタ自動車では生産体制の復旧よりも人道支援を優先する、としています。

≪トヨタの基本指針 災害被災時の優先順位≫
1. 人道支援(人命第一、救援)
2. 被災地(地域)の早期復旧
3. 自社の業務・生産復旧

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai5/siryo4.pdf

どこの会社も大きな差が付きづらいところではありますが、ここに「地域(住民)のためになにかできることをする」と入れるかどうかは会社によって判断が異なるところです。このように、あらかじめトップの方針を明確にしておくべきことは一番早い段階で決めなければなりません。

地域と企業の協働については、ぜひ地域の役所に尋ねてみてください。自社敷地の一部を避難所として開放することなどができます。

また、ここでは、業務の早期復旧を目的とするのか、業務をいかなる場合においても継続させるのを目的とするのか、ということも決めておくことをお勧めします。国民生活にかかわるインフラ事業者であれば、途切れさせないことを目的とすべきです。この場合は「社会的使命を全うする」などといった文言をこの方針の中に入れておくとよいです。その文言がないと、損得勘定で災害に対する備えをする/しないといった議論になりかねません。一方で、社会的使命というよりも顧客との信頼関係の維持を重要視する会社もあると思います。この場合は地域のため社会のためにあれもこれもというよりも、ある程度損得勘定を考えたうえで、ある程度の業務の中断もやむを得ないものとして、災害時の行動計画を練ったほうがよいでしょう。

なぜ、BCPを策定するのかという問いに対して、リスク管理責任者は企業の経営陣と本音でディスカッションしたうえで、この方針を決めるようにしてください。

BCPで想定する緊急事態を絞り込む

あるシナリオをもとに計画を練ることをシナリオベースのBCPといいますが、日本ではこのアプローチをとる企業が多数です。そのほとんどが地震を想定した上で、自社の行動計画を作っていきます。もし、地震では被害が大きすぎでなにをすればいいのかの議論がまとまらないなどの状況に陥るおそれを懸念しているならば、まずは火災や停電や交通機関のマヒなどの事態を想定して計画を練るのがよいでしょう。交通機関のマヒ(従業員が出社できない)という状況に対応できれば、地震の被害で従業員が出社できないという事態にも対応可能になります。自社拠点の停電に備えることは、広域停電に対する備えにもつながります。ですので、小さな規模の災害に備えることから始めることは決して間違いではありません。

事業所がある自治体が出しているハザードマップなどをまずは確認するのが良いでしょう。

BCPの推進の責任者と社内体制を整備する

BCP策定には多くの部門の協力が必要になることから、部門横断的なプロジェクトチームを編成することをお勧めします。全体調整のための事務局を設置する場合があり、人事・総務部が担当しているケースも多いですが、BCPを経営課題だととらえれば、リスク管理部あるいは経営管理部が主導すべきでしょう。「防災(避難訓練・備品の転落防止など)」の延長線上で人事・総務部が主幹になる場合はありますが、被災時の資金繰りや監督官庁とのやり取り、マーケティング施策の停止・修正など経営そのものに近い部署のほうが適切です。

重要な業務、復旧優先事業を選定する

緊急の状況下においても、停止させない重要な業務あるいは優先的に復旧すべき重要事業をあらかじめ決めておくことが重要です。このとき、各部門に「貴部門における重要な業務はなんですか?」と聞くことは得策ではありません。ほとんどすべての部門は自分たちが行っている業務はすべて重要であると考えているからです。

「重要な業務」であるかどうかの判断基準は、「それが止まることで会社が潰れるか」どうかです。1日でも生産を止めてしまうと納入先が別の業者に乗り換えてしまい、そのことにより会社が立ち行かなくなるぐらいの資金難に陥ることが予想される、というのであればそれは「重要な業務」になります。顧客が困る、程度のものでも、「お客様を困らせてはならない」との意見は出てきますが、そのために何億もの投資をするとしたらどうでしょうか?いかなる時にでも止められない業務はプロセスの工夫や追加の投資によって、いかなる時にでも止まらないようにする必要があります。この工夫と投資こそがBCPです。余裕があれば、止めない業務の幅を増やすのもよいと思います。

この選定をするためには、「ビジネスインパクト分析(BIA:Business Impact Analysis)」呼ばれる手法を使うのが一般的なやり方です。

「重要な業務」を継続させる計画=事業継続のための計画を策定する

例えば、1日でも生産を止められない工場を考えてみます。火災で工場が燃えてしまうことを考えれば、別の場所でも同じものを生産できるように、別の場所にも機械と材料を持っておくべきでしょう。このように代替リソースを確保するのが多くの企業でみられるやり方です。

しかし、別の方法もあります。その場合、「そもそもそれはなぜ必要なのか」を考えることが必要です。納入先に製品を届けることこそが重要であるならば、生産の継続は必要ないかもしれません。あらかじめ製品を作っておき、別の場所で保管しておくことなども考えられます。生産は止まるものとして、止まったとしても取引先に迷惑を掛けないだけの量を持っておくことでも事業の継続は可能になります。(その場合は財務的な影響も別途考えることが必要です)

BCPの文書化をする

どの業務を継続させるのか、そのためにどうするのかが決まったら、それを文書化しておくことも重要です。いろいろなことを書きたくなるところですが、重要なのは下記の項目です。

・指揮命令系統
・BCPの発動基準
・誰がなにをするのか

更新・訓練・周知

BCP(事業継続計画)は「文書ができたらそれで終わり」ではありません。定期的にチェックし、見直すべき改善点の洗い出しを怠らないように努めましょう。また、定期的な訓練も重要です。特に、BCPが有効かどうかが社外から監視される場合、訓練の実施については必ずチェックされるところです。

訓練が重要な理由については下記のとおりです。

  • 緊急時に対応できる能力を向上させるため。 BCPが有効に機能するためには、災害発生時に適切な対応をすることが求められます。訓練を行うことで、従業員はBCPの手順を理解し、実行することができるようになります。
  • コミュニケーションのよりスムーズな運営を保証するため。 訓練を行うことで、従業員は互いに連絡を取り、情報を共有することができるようになります。これは、災害時においても重要であり、スムーズな運営を保証するために必要です。
  • 実施手順を確認し、BCPを改善するため。 訓練を行うことで、BCPの実施手順を確認し、実施において問題があった場合はそれを修正することができます。

終わりに

BCP策定までの基本的な手順をご説明しました。それぞれ、より効率的に進めるためのツールや手法などが多く存在します。ご興味ありましたらご連絡ください。

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